間に合ってますか?

      *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
       789女子高生設定をお借りしました。
 


お彼岸も過ぎて、
いくら何でもそろそろ本格的に暖かくなるだろと思った矢先に、
全国的に冷たい雨がしとしとと降った。
時々、どういうやけくそか、
まだ二月という厳寒期に、
お花見時分の気温というのにまで至ったこともあったのに。

「まだまだ油断は禁物ということなんでしょうかねぇ。」

今日はまた、特にきつい寒さがぶり返した感があり。
表から駆け込んだ室内の暖かさは、
鼻先や耳の先をじんわりと温めてくれるのが、
いっそ くすぐったいくらい。
勢いグスグスと言いかかった小鼻をティッシュで押さえつつ、

 「やだな、寒くても花粉って影響するのかな。」

口許をへの字に曲げて見せれば、

 「ほれほれ。奥の間はもっと暖めてあるぞ?」

店先の小あがりは、言ってみりゃ飲食店の座席だ、
開放的すぎて、しばらくするとまた寒くなろうからと。
住居スペースにあたる奥向きまで上がってしまいなさいと勧めつつ、
そちらも暖かそうなカーディガンを、
外着の上着と交換で差し出してくれた、そりゃあ優しい恋人さんへ、

 「ゴロさん、好き好き〜〜〜vv」

カーディガンよりも暖かな、
頼もしい懐ろへとぱふり、幼いお顔を埋めてしまう、
うら若き許婚者さんの愛らしさよ。
屈託のない素振りは、だが、
かつての“彼”にも見られたそれで。
但しそっちは、本音を隠すためだったり、
とあるフレーズへは激しく動揺しがちな心の内を、
おいそれと見せぬためだったりしたらしくって。
今の現し世にては…試験が近いだのニキビが出来たの、
他愛なくもかあいらしい悩み事の他には、何の鬱屈もないまま。
いつだってそりゃあ幸せそうに微笑っているヘイハチなのが、
こちらの胸まで温めて止まず。

 「今日のおやつは?」
 「さっくりタイプのシュークリームと三笠饅頭だ。」
 「うあ、どっちも好きだvv」

  どっちかなんて選べないよぉ。
  ならどっちも食べればいいさ。
  だってそれだとカロリーオーバーですよぉ。
  なんの、ヘイさんは運動量が多いのか、あんまり響いちゃおらんだろ。
  え〜〜〜、そっかなぁvv

相変わらずに仲睦まじい二人なのは判ったから、

 「…先に上がっちゃおっか、キュウゾウ。」
 「…、…、…。(頷、頷、頷。)」

後に続いてたお連れの二人、
同級生のシチロージとキュウゾウが、
一連のラブラブ模様、どこまで見物してていやらと。
少々鼻白んだのは言うまでもなかったり…。
(苦笑)



      ◇◇◇


金髪娘二人の視線に負けた訳じゃあなかったが、
他にもお客があってのこと、
商売優先してくださいと、
やっとのこと恋人さんから剥がれたヘイハチが先導する格好で、
住居スペースのほうの居間へと上がって落ち着いた、
仲よし女子高生3人組だったりし。
彼女ら3人が一緒に通う高校は、とっくに春休みへとなだれ込んでおり。
とはいえ、この不安定な気候では、
ちょっとした小旅行に行くにしても…上着はどのくらいのものが要るものか。
荷物になっても困るけど、
そうかと言って出先で寒さに震え上がっては何にもならぬと、
何だかいちいち面倒そうで。
若さを武器にし、恋人さんとの進展振り、何とか先へ進ませたがっている誰かさんは、
この寒空の下でもマイクロミニなぞ履き倒していたらしいけれど。
かわいいは追及出来ても、
セクシーはまださほど必要でもなかろと構える残りのお二人はといやぁ。
ちょっとばかり暖かくなったからと言って薄着になると、
後で後悔するんですよねなんて言い合い、
ネズミーのキャラがプリントされた使い捨てカイロを、
ほら新しいの、何のこっちはレアものだなんて、見せ合ってたりする罪のなさ。
そんなほどマイペースの二人をよそに、
部屋の中央に鎮座していたコタツへ足を入れつつ、
さっそくにも持参したトートバッグからあれこれ取り出し、
お店を広げたのがシチロージで、

 「シチさんたら、相変わらずいきなりな人ですよね。」
 「だってさ…。」

真新しい棒針を操り、
白い指先に掬い取った毛糸を、ちむちむちむ…と根気よく紡ぐ姿は、
だが、もうそろそろ四月の声も聞こうかというこの頃合いには、
ちょこっと相応しくはないような。

 「だから。このところは唐突に寒くなったりするじゃない。」
 「そこで…カンベエさんへ、
  私だと思って暖まってっていうグッズを差し入れしようと?」

やだ、そこまで言ってないっ///////と、
白い頬を真っ赤にしたが 手は止めず。
針先で小さな目を拾っちゃあ、掬った糸と入れ替え編み込み、
お膝に乗っけた何かしら、ちょっとずつちょっとずつ編み進めておいでであり。

 「……。////////」
 「…うん。絵になりますよねぇ。」

なめらかな金の髪をゆるく束ねてのかすかにうつむき、
柔らかすべらかな線を描く頬にほのかに朱を散らし。
無心に手元を見下ろして、
最愛の人への贈り物、ちむちむと編み進めている様子はさながら、
好きです好きですとの一途さを込めた、
そりゃあ暖かな想いを紡ぐお祈りのようでもあって。

 「…。」
 「え? 何で突然編み物なのか、ですか?」

やはりコタツへと入ったそのまま、
赤基調の格子柄の布団へ頬をくっつけ。
すんなりとした小首を傾げると、
熱心な没頭ぶりの彼女とその向かい側にいるヘイハチとを、
交互に見やるキュウゾウだったのへ。
みかん色の髪した猫目の少女、それだけで意を酌めたそのまんま、
あらまあと微妙に呆れてしまう。

 「やですよぉ。元はといや、キュウゾウ殿が。」
 「???」

ヘイハチの言いようへ、
ただただ赤い双眸をきょろんと剥いてしまったのは、
心底心当たりがないからだろうが、

 「ですから、ほら。
  ヒョーゴ先生へビーズで作ったチャームをあげたでしょ?」

かつては…刀を振るうことへは天才だったこととの相殺か、
細かいあれこれには とんと関心も示さねば、要領も悪く。
紐を結ばせれば何度やっても縦結びにするし、
真っ当にほどけた試しはもっとなく。
ちょっとした浴衣や小袖の着方も知らず、
誰かさんが当時から世話好きの血を騒がせていたほどだったっけ。
……じゃあなくて。
そんなだったキュウゾウが、なのに今の生では微妙に違っていて。
剣の道へと進まなんだその代わり、
バレエという、
指先へまで神経を行き届かせる、芸術系の畑に馴染んでいるせいだろか。
これで裁縫や手芸が存外得意と来て、
ヘイハチやシチロージがどれほどのこと驚かされたやら。
当人曰くは、

 『共働きで母が昼間いなかったからな。』

なので、繕い物だの学校指定の雑巾や鉢巻きだの、
自分で用意していた名残りだそうだが。

 「あんな立体的な雪だるまのチャームをビーズで作ってしまうなんて。
  しかも、ヒョーゴ先生とお揃いで自分のまで。」

学園の校医も務めるヒョーゴ殿は、
キュウゾウの幼いころからの掛かり付けのお医者でもあったので。
偏食を注意されたり貧血を案じてもらうのは昔からのこと、
そんな構いつけが微妙に嬉しいのも、そのご縁の延長だと思ってた。
でもね、あのね?
そういえば、嬉しいの熱とかドキドキは、
他の人と仲がよくて感じるそれとは少し違うって気がついて。
それって好きってことだよと、この二人から指摘され。
それからはどんどんと自覚が深まってっての、気になってばかりいて。
髪を撫でてもらうのも好き。
そんな薄着では風邪を引くだろがと、
叱りつけながらも貸してくれる上着の匂いも好き。
そういう“好き”へは素直でいなさいねと言われたので、
うんうんと納得していたその矢先。
戸に引っかけてストラップが千切れてしまったところを見ちゃったもんだから、
ちむちむと作ったの、どうぞと渡した話をしたらば、

 『…アタシも頑張る。』

むんと何にか勢いづいてたシチだったのは覚えているけど。

 「…?」

自分のお顔を指さすところは、
成程シチさんが構いたくなる可愛さだなぁと感じつつ、

 「ええ。シチさんだってなかなかに器用な方じゃあありますが、
  同世代同士じゃないカレ氏なんで、
  手製のものってどうかななんて思ってたらしいんですよね。」

まさかに体操着入れとかのノリで巾着袋を縫ってもしょうがないですし、
マフラーやセーターなんての編んだところで、
子供っぽいって思われないか、
何よりカンベエさんって滅多にウール素材のものを着てないから、
趣味が合わないんじゃなかろうかって。

 「何せあの御仁ですから、
  ハンカチに刺繍くらいじゃあ気づきもしないでしょうし。」
 「…、…、…。(頷、頷、頷。)」

この数日の極端な寒さをみて、大急ぎで編み始めた何かしら。
なのでかどうか、一心不乱が過ぎてのこと、
こうまで間近でのおしゃべりも、耳には届いてないみたいだしと。
肩をすくめるヘイハチだったのへ、
そんな二人に挟まれる格好、横手へ座っているご当人は、
やっぱり何の反応も見せぬまま。
時折、編み上がった成果を縦へと延ばしてみちゃあ、
うんうん あと○○段だ、なんて、
独りごちていたりするのみだったりし。

 「……。」
 「そうですね。あたしたちとしては暖かくなってほしいけど。
  シチさんのためを思や、もう2、3日は寒くても構いませんかね。」

だってあのシマダは相変わらずの朴念仁だから、
暖かくなってから完成品を渡したならば、
この季節に?というお顔をきっとしかねない。
むさ苦しいばかりな髪や髭や、
洗練されてない風体やら、シチはあんな男のどこがいいのだかと、
こうまでの美少女の謎なお好みへ、
怪訝そうに口元尖らせかかったキュウゾウだったものの。

 「あ〜あ、二人とも器用だからうらやましいですよね、まったく。」

そんなお声を立てたのがヘイハチだったりし。
握り飯を作らせれば当代一だと疑わぬ名人が???と見やれば、

 「だってウチだと、ゴロさんが何でも出来ちゃいますからね。」

ほのかにしょっぱそうなお顔をし、口元たわめた彼女が言うには、

 「料理だって編み物だって、棚を直すのだって手早くて上手だし。
  旅行や何やの前の晩だからって興奮していても、
  それは上手に寝かしつけてくれちゃうんですよね。」
 「…☆」

 カンベエさんみたいな朴念仁も困りもんですが、
 ゴロさんみたいに何でも出来る人を好いちゃうのも、なかなか大変で。

 ……林田、それはもしかして惚気とかいうやつではないのか?

当人同士は至って真面目に、
だがだが、第三者として聞いていたならば、吹き出したくなるよなやりとりを、
こしょこしょと紡ぎ合う二人の傍らでは。
やっぱり集中したまんまなこちら様、
無心でいても麗しいお顔を傾けて、
柔らかそうな口元をかすかに震わせては編み目を数え、
真っ白い何かを黙々と作成中。

 「キュウゾウ殿、カンベエさんにはクギを刺しときましょうね。
  頓珍漢なこと言ってシチさんを泣かせたら、あたしら二人が容赦しないって。」
 「…。(頷)」

世はこともなく、春はまだ浅く。
とはいえ乙女らの胸のうちには、
甘い東風が吹き初めている模様。
男性諸氏は、どうかどうか、
無神経な一言で、幼い蕾花、散らさぬよう、
気をつけてあげてくだしゃんせ…。




  〜Fine〜  10.03.26.


 *タイトルは、寒いうちに間に合いましたか?という意味でしたvv
  寒の戻りなんて言いようじゃあ収まらないくらい、
  あんまりにも寒かったので、
  レッグウォーマーをも一度引っ張り出しちゃったんですよね。
  それで思いついたお話です。
  寒いのに強い勘兵衛様がいたり暑いのが我慢できない久蔵さんがいたりと、
  お部屋によって個性は様々ですが、
  不器用なシチちゃんはあんまり見たことがないなぁ…。

 *ところで何を編んでるシチさんなんでしょうね。
  カーディガンやベストは時間が足りなかろうし、
  かと言ってマフラーは、いくら何でもすぐにも要らなくなりそだし。

  「もしかして、ネックウォーマーだとか?」
  「うんvv 男の人へはおかしいかな。」
  「そんなことはないない。きっと似合うよ、カンベエさんに。」
  「……。(問題は、腹巻きやヘアバンドと間違えないかだな。)」

  こら、キュウゾウ殿
(笑)

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